なぜ「地方の田舎」の会社が売れたのか?

北陸地方の主要都市から車で約1時間。この地に拠点を置く、ある設計会社のM&A(会社売却)事例です。
 
経営者は65歳を超え、後継者も不在という状況でした。事業承継の一環として会社売却を検討していました。
 
このような地方の小規模企業においても、M&Aによる会社売却は実現可能なのでしょうか。

ある地方設計会社の会社売却検討の経緯

従業員10名、うち数名は国家資格である1級土木施工管理技士の有資格者という技術者が在籍していました。
 
事業は主に、都市部から離れた地域における公共事業(河川工事等)の設計であり、顧客は地元企業にほぼ限定され、地元の主要建設会社からの下請け・孫請け業務が大半を占めるという、特定領域・特定顧客に依存するものでした。
 
このような事業構造のもと、年間売上高約2億円を維持しつつも、収益性は極めて低い状態が慢性化。加えて、1億円を超える借入金が財務を恒常的に圧迫していました。
 
さらに、外部環境の変化として公共工事の減少が進行し、その結果、受注案件は技術的難易度の高いものへとシフト。標準的な案件においても新技術への適応が必須となるなか、従業員の年齢構成は40代後半から60代と高く、この変化への迅速な対応力に構造的な課題を抱えていました。
 
これらの事業構造、財務状況、外部環境、そして内部体制という、これらの複合的な要因から、会社売却の検討を進めていました。

タイミングとニーズの一致が生むM&Aの可能性

約1億円の借入金、従業員の高齢化、そして地方の田舎。これらの厳しい条件を抱え、当初、この設計会社を引き受ける会社を見つけることは難しいと思われていました。
 
大手から未上場の中堅企業に至るまで、数百社にも及ぶ建設会社に打診を重ねたものの、好意的な返事は得られませんでした。そのような中、仙台市に本社を置く一社の中堅ゼネコンが関心を示すという転機が訪れます。
 
同社は、北陸地方における事業拠点強化をまさに検討している最中でした。当初は交通利便性の高い駅周辺など都市中心部での拠点開設を構想していたものの、まずは当該県内での確固たる拠点確保を最優先事項と判断したそうです。
 
その背景には、公共工事の入札において、対象地域に事業拠点があることが有利に働く、あるいは一部案件では必須条件となるという実情がありました。まさにその絶妙なタイミングで、今回の売却企業と巡り合い、M&A成立ということになりました。
 
交渉の結果、株式の対価は1円という評価でしたが、そのかわり約1億円の借入金は全て買い手企業が引き継ぎ、さらに全従業員の雇用も維持するという条件で、無事クロージングに至りました。
 
これは、地方の小規模企業であったとしても、買い手側のその時々のニーズと合致すれば、困難な条件下でもM&Aが可能だという事例といえるのではないでしょうか。

なぜ「地方の田舎」の会社が売れたのか?3つのポイント

今回の事例は建設業界になりますが、新たな事業拠点を求める企業のニーズは、あらゆる業界に存在すると考えられます。
 
とりわけ、新たな事業拠点と、その地で即戦力となる経験豊富な人材を、合理的なコストで同時に獲得できることは、多くの企業にとって魅力的なのではないでしょうか。
 
「地の利に乏しい」「地方の過疎地」「交通アクセスが不便」といった要素は、マイナス要因と捉えられがちです。しかし、視点を変えれば、これらは「事業拠点を低コストで獲得できる」という付加価値に変わります。
 
今回の買い手となった中堅ゼネコンが評価したのは、物理的な拠点だけではありませんでした。設計会社に在籍する「土木施工管理技士」という専門人材の価値も評価の対象に入っていました。
 
建設業界では、大型工事現場への有資格者の常駐が義務づけられており、この専門人材の不足が原因で、入札機会を逃したり、事業拡大の足かせとなっている場合が少なくないそうです。

なぜ「地方の田舎」の会社が売れたのか?3つのポイント
  • 事業拠点の低コスト獲得
  • 「地域限定公共工事」への入札
  • 有資格者(一級土木施工管理技士)の一括確保

売却価格を60秒でシミュレーション基本的な財務情報を入力すると、WEB上で会社の売却価格を自動で算定します。
各業界の動向や調査統計情報、株式市場、M&A市場の動向を総合して
売却価格を計算します。

最新のコラム

まずは無料でご相談ください

アドバンストアイには大手上場企業から、中堅企業、小規模企業まで、さまざまな売上規模の会社のM&Aを手がけてきました。
まずはお気軽にご相談ください。