会社を売るとき、なぜ「磨き上げ」が必要なのか?①

M&Aプロセスにおいて、買い手企業は売り手企業に対する詳細調査(デューデリジェンス)を行います。
 
これには数カ月を要することも珍しくなく、慎重な作業が積み重ねられるため、M&A全体の所要期間は半年から1年以上に及ぶこともあります。
 
そのため、M&Aは長期的な視点で戦略的に取り組む必要があります。
 
好条件でのM&A成立、そして高い評価での会社売却を実現するためには、自社の弱点を克服し、強みを最大限にアピールすることが不可欠です。
 
M&Aに際し、このように自社の価値を高める作業を「磨き上げ」と呼びます。この「磨き上げ」こそが、M&Aの成果を左右するポイントになります。
 
今回は、このM&Aにおける「磨き上げ」の具体的な作業やポイントについて詳しくご紹介します。

会社の価値を上げる「磨き上げ」は何をするの?

「磨き上げ」とは、M&Aの交渉を開始する前に、売り手企業が自社の課題や潜在的なリスクを主体的に調査・分析し、改善策を計画・実行する一連の戦略的活動です。
 
この磨き上げを実施する目的は、買い手企業からより良い条件を引き出すとともに、M&A成立後の企業価値向上と持続的な成長を実現することにあります。
 
具体的には、まずM&Aの障害となり得る要因を徹底的に洗い出し、改善に努めます。同時に、交渉プロセスの円滑化、およびM&A後のスムーズな事業統合を見据え、経営基盤の最適化を図ります。
 
磨き上げの過程では、改善が可能な項目は速やかに是正します。一方、解決に時間を要する課題については、その本質を見極め、具体的な解決策と実行計画(ロードマップ)を明確に提示できるように準備を進めます。
 
このように、積極的に経営の質を高めて、企業価値を向上させることで、売り手企業はより幅広い売却先の選択肢を確保し、最終的により有利な条件でのM&A成立を目指します。

磨き上げの第一段階:M&Aの障害となる「阻害要因」の解消

まず磨き上げで取り組むべきは、M&Aプロセスが本格的に始まる前に必ず解決しておかなければならない課題、「M&Aの阻害要因」の特定と解消です。
 
これらは、企業価値を議論する以前の根本的な問題であり、放置すればM&Aの成立自体を困難にしたり、最悪の場合、ディールブレイクに至る可能性のある重大なリスク要因を指します。
 
これらの「M&Aの阻害要因」が未解決のままでは、M&A取引の実行が不可能になる、あるいは取引条件に著しく不利な影響が及ぶといった事態を招きかねません。
 
主な阻害要因については、企業の経営活動全般に関して、以下の視点から致命的な問題が潜んでいないかを徹底的にチェックし洗い出します。

  • 法務面)      例:法令違反、重要な契約上の問題、訴訟リスクなど
  • 財務・税務面)   例:不適切な会計処理、未認識債務、税務リスクなど
  • 組織・人事・労務面)例:キーパーソンの流出リスク、未払い残業代など

 

基礎的修正の磨き上げ:M&Aを阻害する主な要因を改善

M&Aを阻害する要因で、下記に該当する項目がある場合は、速やかな修正が求めれます。
 
この初期段階での改善が「磨き上げ」における「基礎的修正」になります。

法務の視点
  • 株主構成は適法かつ明確であり、株式取得の経緯に問題はないか
  • 会社運営の基本的事項(定款、株主総会・取締役会議事録、登記、社内規程、許認可等)は法的に有効かつ適切に整備・運用されているか
  • 重大な法令違反(コンプライアンス違反)やそのリスクはないか
  • 主要な取引先との契約内容は実態に即しており、法的に有効かつ不利な条項が含まれていないか
  • 重要な資産(不動産、知的財産権等)や技術の使用権原は法的に確保・保護されているか
財務・税務の視点
  • 不適切な会計処理(粉飾決算、利益操作等)や税務処理(申告漏れ、過少申告等)はないか
  • 簿外債務(未払残業代、未認識のリース債務、偶発債務等)や、将来的に発生しうる債務のリスクはないか
  • 訴訟、紛争、その他の偶発事象による潜在的な損失リスクは適切に把握されているか
  • 不合理な取引(実態のない循環取引、関連当事者との不透明な取引、継続的な不当廉売、過剰な在庫投資等)により、財政状態や経営成績が歪められていないか
組織・人事・労務の視点
  • 法令に抵触する、または社会通念上著しく不適切な労働環境(長時間労働の常態化、ハラスメント等)はないか
  • 従業員の定着率が極端に低い、あるいはメンタルヘルス不調者が多数発生するなど、組織運営の持続可能性を揺るがす深刻な問題はないか

これら3つの視点から提起された主要な項目において、重大な問題点が確認され、かつ、それらが是正済みであるか具体的な改善計画が提示されない場合、M&Aプロセスへの移行やその後の交渉は著しく困難になる可能性があります。
 
 
なぜなら、これらの問題点は、買い手企業がディールの実行可否や条件を判断する上で、極めて慎重にならざるを得ない重大な懸念事項となるからです。
 
とはいえ、とくに中小企業のM&Aにおいては、上記全ての項目が完璧な状態である企業は稀であり、多くの場合、何らかの課題や潜在的なリスク(阻害要因)が発見されるのが実情です。

磨き上げをしないと、M&Aが破談になる場合も

より良い条件でM&Aを成功させるためには、まず「磨き上げ」で明らかになった自社の問題や課題に対し、可能な限り主体的に解決策を講じた上で、M&Aプロセスに入ることが理想的です。
 
しかし、全ての課題が自社のみで解決できるとは限りません。そのような場合でも、改善すべき点を正確に把握し、具体的な解決策や方針を提示することが重要です。
 
また、外部の専門家に協力を仰ぐ、あるいはM&A成立後に買い手企業と共同で解決に当たるなど、状況に応じた最適な対応が必要となります。
 
「磨き上げ」で最も大切なことは、自社の課題を正確に認識し、それに対する具体的な対処方針(解決策や改善計画)を買い手候補へ明確に示せる状態にしておくことです。
 
問題の所在や内容が不明確なままでは、買い手企業は潜在的リスクを懸念し、M&Aの検討に消極的にならざるを得ません。
 
ところが、多くの中小企業のM&Aにおいては、この「磨き上げ」が十分に行われていないのが現状です。主な理由としては、磨き上げに相応の時間とコストを要するため、中小企業にとって負担が大きいという側面に加え、M&Aを支援する会社側に、磨き上げに関する十分な知識や実務経験が不足しているということがあります。
 
その結果、十分な「磨き上げ」がなされないまま買い手候補によるデューデリジェンスの段階に進み、そこで問題点が発覚し、最終的にM&Aが破談に至るというケースは後を絶ちません。
 
仮にM&Aが成立したとしても、買い手主導の厳しい条件交渉を余儀なくされたり、発見されたリスクを理由に企業価値が低く評価され、想定よりも低い売却価格を受け入れざるを得なくなったりするなど、売り手企業にとって多くの不利益が生じる可能性が高くあります。
 
こうしたことを避けるために、M&Aを通じて企業の価値を最大限に引き出すためには、「磨き上げ」というプロセスが不可欠になります。一見、時間とコストを要するこの取り組みも、長期的な視点で見れば、自社の魅力を高め、より多くの選択肢とより良い条件を引き出すための取り組みであることがわかるのではないでしょうか。

売却価格を60秒でシミュレーション基本的な財務情報を入力すると、WEB上で会社の売却価格を自動で算定します。
各業界の動向や調査統計情報、株式市場、M&A市場の動向を総合して
売却価格を計算します。

最新のコラム

まずは無料でご相談ください

アドバンストアイには大手上場企業から、中堅企業、小規模企業まで、さまざまな売上規模の会社のM&Aを手がけてきました。
まずはお気軽にご相談ください。