M&Aで公開しない「買い手企業」の選び方とは?価格以外に見るべき3つの評価ポイント

会社売却において、売却価格(バリュエーション)は重要ですが、それだけで買い手を選ぶと「M&A後の後悔」につながるリスクがあります。
 
M&Aの成功とは、単に高く売れるだけではなく、売却後の従業員の雇用や事業の成長が約束されることです。
 
この記事では、M&Aアドバイザーの視点から、価格以外の条件で見るべき「シナジー」「企業文化」「契約内容」の3つの重要な評価ポイントについて解説します。

M&Aの成功は「売却価格」だけで決まらない理由

当然ながら「自社がいくらで売れるか」という売却価格は最大の関心事です。M&Aアドバイザーも、より高い売却条件を引き出すために尽力します。
 
しかし、最高価格を提示した買い手が、会社を単なる「投資対象」としか見ていなかったらどうでしょうか。買収後すぐに主力事業を切り売りしたり、短期的な利益のために従業員を大量解雇したりするかもしれません。
 
M&Aで重視すべき条件は、売却価格だけではありません。例えば、次のような点も重要です。
 
• 売却後も従業員の雇用と生活を守ってほしい
• 自社が育ててきた事業やブランドを、さらに発展させてほしい
• 長年関係を築いてきた取引先との良好な関係を維持してほしい
 
経営者によって求める条件は異なると思いますが、提示した条件が守られてこそ、「良いM&Aだった」と心から納得できるのではないでしょうか。
 
実際、売却価格だけで決めてしまい、買い手企業の理念や方針を十分に確認しなかった結果、「こんなはずではなかった」と後悔する経営者は少なくありません。

失敗事例1:企業文化のミスマッチによる従業員の大量離職

「社員は家族だ」という想いで社員の誕生日会を開くなど、家族的な経営文化を大切にしてきたとします。
 
買収後、外資系ファンドや効率重視の大企業が、「今日からすべてKPIで管理する」「会議は英語で実施」「詳細な業務報告を毎日提出」といったドライな文化を持ち込みました。
 
これまで「社長の想い」に応える形でモチベーションを保ってきた古参社員や中核人材は、「自分たちの居場所はなくなった」と感じ、次々と会社を去っていきました。
 
結果として、買い手は高額で会社を買ったものの、その価値の源泉であった「人」を失い、事業は停滞。あなたの手元には売却益が残りましたが、家族同然だった社員たちは失われました。

失敗事例2:短期利益追求によるブランド毀損

「品質だけは譲れない」と守り抜いてきた製品や、利益を削ってでも続けてきた手厚い顧客サポートがあったとします。それこそが、他社にはない「ブランド価値」でした。
 
しかし、短期的な利益を追求する買い手は、真っ先に材料コストの削減やサポート部門の人員半減を指示しました。
 
結果、製品の品質は低下し、顧客からのクレームは増大。長年信頼してくれていた顧客や取引先は、「昔は良かったのに…」と離れていきました。何十年もかけて築いたブランドは、わずか数年で失われたのです。

失敗事例3:売却後に経営者が抱える「ロックアップ期間」の後悔

M&Aが成立した後も、経営者は引継ぎのために一定期間(ロックアップ期間)、会社に残ることを求められる場合があります。
 
その期間中、上記の①や②の理由で、従業員が辞めていく姿、顧客が離れていく現実、そして大切にしてきた理念が「非効率」の一言で切り捨てられる現場を目の当たりにすることになります。しかし、すでに経営権は買い手に移っているため、もう何もできません。
 
「なぜ、あんな相手に売ってしまったのか」
「お金と引き換えに、大切なものを失ってしまった」
 
こうした「売却後の後悔」こそが、価格だけでM&Aの相手を選んだ経営者が直面する、最も深刻な失敗です。

良い買い手企業を見極めるための3つの評価ポイント

それでは、会社と従業員の未来を安心して託せる買い手を見つけるには、どうすればよいのでしょうか。
 
価格はもちろん重要です。しかし、それだけでは不十分です。買い手候補を選ぶときは、以下の3つのポイントを確認しましょう。

1. 事業の相性(シナジー効果)

• 事業統合によって「1+1」が3以上になるか?
• 従業員のキャリアパスは広がるか?
• 販路拡大や技術連携のメリットはあるか?
 
買い手の事業と自社の事業を掛け合わせることで、「1+1=3」以上の相乗効果を生み出せるかという視点です。
 
従業員の未来は広がるか?
• 全国展開や海外拠点を持つ買い手なら、営業担当はより広いフィールドで活躍できる
• 買い手の開発技術と自社の製造ノウハウを結び付ければ、従業員はより高度な仕事に挑戦できる
 
事業はさらに成長できるか?
• 買い手のブランド力やマーケティング力を活用し、自社製品をより多くの顧客に届けられる
• 買い手のリソース(人材、資金、設備)によって、これまで実現できなかった新規事業や投資が可能になる。

2. 企業文化(カルチャー)の適合性

• 意思決定のスピード感やプロセスは合うか?
• 「家族経営」か「成果主義」かなどの価値観は近いか?
• 従業員への接し方に違和感はないか?
 
企業文化の相性は見落とされがちですが、M&Aの成否を左右する最重要要素です。
 
企業文化とは、「会社の空気」のようなもので、価値観、意思決定のスピード、従業員への接し方、リスクの取り方、仕事の進め方など、明文化されていない暗黙のルールを指します。ここが合わなければ、必ず組織内に軋轢が生じます。
 
よくある文化の違い
• じっくり議論して決める会社 vs トップダウンで即断即決する会社
• プロセスや協調性を重んじる会社 vs 結果(数字)がすべての会社
• 家族的で温かい人間関係 vs ビジネスライクでドライな人間関係

3. 経済条件と契約内容(PMIへの影響)

• 提示価格の根拠は明確化?
• 雇用維持条項(従業員の雇用期間保証)は含まれているか?
• 役員退職金やロックアップ期間の報酬などの要件は適正か?
 
そして3つ目が、価格を含む経済条件です。ここで重要なのは、提示価格の数字だけを見るのではなく、契約条件の中身を精査することです。
 
提示価格は妥当か?
自社の企業価値(将来性や技術力など目に見えない価値も含む)が、正当に評価された金額になっているか確認しましょう。
 
「価格以外」の条件はどうか?
価格交渉とセットで、以下の条件を明確にする必要があります。
 
• 従業員の雇用維持
「最低2年間は現行の労働条件で雇用を維持する」といった具体的な条項を盛り込めるか
 
• 経営者の処遇
役員退職金は支払われるか、引継ぎ期間(ロックアップ)の報酬はいくらか
 
• 支払条件
売買代金はどのように支払われるか
※ファンドなどは、業績連動で後払いにする「アーンアウト条項」を提示することがあるため注意
 
例えば、最高価格を提示したA社と、価格は2番手だが「従業員の雇用を5年間保証し、役員退職金も満額支払う」と提示したB社があったとします。
 
どちらがあなたと従業員にとって良いパートナーでしょうか。最善の買い手を選ぶには、シナジー、企業文化、経済条件の3つを総合的に比較検討することが不可欠です。

M&Aの買い手選びに関するよくある質問

Q. M&Aで一番高い価格を提示した企業に売るのが正解ですか?
A. 必ずしも正解とは言えません。最高値を提示した企業が、買収後のリストラや不採算部門の切り捨てを前提としている場合があるからです。価格だけではなく、従業員の雇用維持や事業方針などの「非価格条件」も合わせて検討することが重要です。
 
Q. 買い手企業の「企業文化」はどうやって確認すればいいですか?
A. トップ面談(経営者同士の会談)や、会社や工場・店舗見学などを通じて確認します。経営者の人柄や言葉選び、現場の社員の雰囲気などを直接肌で感じることが、数字には表れない文化を見極めるポイントになります。
 
Q. 複数の買い手候補から1社に絞る決め手は何ですか?
A. 「自社の弱みを補完してくれるか(シナジー)」と「安心して従業員を任せられるか(信頼感)」の2点が最終的な決め手になることが多いです。迷った場合は、M&Aアドバイザーを交えて各社の提案を客観的に比較検討することをおすすめします。

まとめ

価格はもちろん重要です。しかし、M&Aの成功はそれだけでは決まりません。
 
会社が大切にしてきた価値観を理解し、従業員の未来を真剣に考えてくれる買い手かどうか。これも同じくらい重要な判断基準です。
 
価格交渉はM&Aアドバイザーに任せ、経営者自身はトップ面談を通じて相手の人柄や理念を見極めましょう。「この相手なら安心して任せられる」と心から思えるまで、じっくり検討することをおすすめします。

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