特別対談 岡本行生×池井戸 潤

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池井戸潤がホレた男の覚悟、
物語もビジネスも「心を動かす」ことから生まれる

長期的視点で事業を育てるために

池井戸岡本さんの手がけた事業再生にも、面白い事例がいくつもあるんです。昔、メロンパンの会社を支援したことがありましたよね?

岡本はい。バンで移動販売をしている会社を。今みたいにブームになる少し前ですが、メロンパン、個人的に好きだったもので(笑)。

池井戸ある正月に、その会社がメロンパンを初詣の神社の前で売ろうとして、材料を大量仕入れして大量製造したのに、当日、雪が降ってしまった。ぜんぜん売れなくて、一気に経営が傾いて潰れそうになったとき、岡本さんは「こりゃいかん」とメロンパンの会社のアドバイザーになって買い手を探した。

結果的にスーパーに売り込んで見事、救済に成功しました。しかも、そのときは売買成立まで完全に手弁当だった。

岡本ありましたね、そんなことが。

池井戸ね、ほとんどマンガですよ。こういう人間くさい会社です。僕が社外取締役として果たすことといえば、まあ、そういう事業内容に対するチェック機能なんでしょうけど、あんまり果たせていないような……。

岡本いやいや。池井戸さんは僕らが、この案件をどうやっていこうか、この会社にとっていちばんいいことって何だろうと考える中で、つい近視眼的になりがちなときに、「こんな考え方もあるんじゃないの?」とか、ときには厳しく「そういう態度はどうだろうか」と、少し引いた視点で的確なアドバイスをしてくださって、それがすごく心に響くんです。

池井戸 潤

岡本たとえば、ある会社が買収されることになったとして、僕らは嫁入り先の会社との親和性を考え、1年くらいの短いスパンでいい融合ができるかどうかを考えることが多いんですが、池井戸さんはもっと長い視点を持っておられる。

「10年20年という単位で将来を見たとき、この業種はどうなんだろう?」「この事業だけで会社が生き残れるだろうか」と。皆、感謝していますよ。

裏切り者には「倍返し」?

池井戸岡本さんは直接お客さんに接しているわけだし、やっぱり、性格が優しいですからね。僕はお客さんの顔を見ていないし、数字とストーリーしか聞いていないから、つい言いたい放題になってしまう(笑)。

岡本強く言われたことも、ありましたよね。僕がかなり前からお手伝いをしている会社があるとき窮地に陥って、一時的に資金を出したことがあるんですが、そのお金が期日どおりに返済されなかったとき、「ちゃんと担保を取りなさい!」「それじゃ会社が成り立たない!」と。

池井戸さん、まさに「半沢直樹」というか、凄腕銀行マンの追い込みのような勢いで(笑)。

池井戸ハハハ。岡本さんが熱心だから、ついつい取引先がそれを利用して、これをやってくれ、あれをやってくれと頼もうとするんだよね。お金は二の次、みたいなことになりがちだから、「そういうときはコンサルティングフィーを取る!」「タダ働き厳禁!」と。

岡本本当にお客さまのためを思うなら、そのくらいの覚悟を持ってやりなさいということですよね。そういう言葉に、いつも奮い立たされています。

あと、こういう仕事をしていると、トラブルに巻き込まれることもあるんです。以前、ある会社の売り主のコンサルティングをしていたとき、ずいぶん長い期間、心血を注いで嫁入り先を探していたんですが、その会社が僕らに内緒で別のコンサルティング会社とやり取りをしていて、直前になってあっさり鞍替えされたことがあって……。

池井戸あんなに親身になって考えたのに、いきなり最後にトンビに油揚げをさらわれた。あのときのことは、今でも夢に見ますね。で、「許さんぞ!」と(笑)。

岡本「信義にもとる相手にはペナルティーを課せ!」っておっしゃいましたよね(笑)。僕らのアドバイス力が弱かったのかもしれないけれど、こちらも命がけで取り組んでいる以上、やっぱり筋違いじゃないかと、僕も思いました。

でも、その会社も何とか窮地を脱して滑り出してはいるようで、僕らのところにもときどき情報が来ますから、またこの先、お客さまとして相談を受ける機会もあるかもしれません。

「この人のために働きたい」が原動力

池井戸いろんなことがありますが、やっぱり事業の世界は面白いですよ。世の中に直に触れている感じが。ここから小説のネタを取ろうとは思っていませんが、現実から得るシズル感は、創作の刺激になります。

岡本ええ。僕が仕事をしていてうれしいと感じるのは、事業承継をお手伝いさせてもらったあと、経営者の方や、嫁入り先で働いている従業員の方々から「あのバトンタッチがあって、本当によかった」と言ってもらえたとき。

岡本事業としては、うまくいくケースも、思っていたほどに伸びない場合もありますが、新しい会社で働くことになった人が、リストラにも遭わずに楽しく働けているというのが、いちばんいいこと。

それに、仕事というものは、やっぱり会社だけで成り立っているものではなくて、働く人の家族や友人といった個人的なつながりに支えられていて、そのことで経営者は頑張れるわけですから。

映画『空飛ぶタイヤ』でも、長瀬智也さんの奥さん役の深田恭子さんが、「まだすべて終わったわけじゃないでしょ、社長さん」って言うじゃないですか。あの場面が、本当に……。

池井戸好きなんだ(笑)。

岡本はい、えーと、そうです(笑)。でも僕も、赤松社長のように、従業員や取引先の方のことをいの一番に心配される経営者には、やはり心を動かされます。

長年育んだ自社の事業だけでなく、周囲の方々にも気配りされる方は、当たり前ですが、お金以外の事業の価値をきちっと認識されている。日本にはまだそんな経営者が少なからずいて、お会いすると「この方のためなら……」と、思ってしまうんです。

池井戸こうやってどんどん深入りしていく岡本さんを現実面でサポートするのが、僕の役割だということですね(笑)。いつか、岡本さんの話でも小説が書けそうな気がします。

池井戸 潤

池井戸 潤 いけいど じゅん

作家。︎1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2010年、『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、11年、『下町ロケット』で直木賞を受賞。代表作に下町ロケットシリーズ(『ガウディ計画』編、『ゴースト』編)、半沢直樹シリーズ(『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』)、花咲舞シリーズ(『不祥事』『花咲舞が黙ってない』ほか)、『シャイロックの子供たち』『民王』『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『陸王』『アキラとあきら』などがある。14年6月より、アドバンストアイ株式会社社外取締役。

岡本行生

岡本行生 おかもと ゆきお

アドバンストアイ株式会社代表取締役社長。1968年香川県生まれ。東京大学理学部情報科学科卒業。証券会社に入社し、95年、ペンシルベニア大学ウォートンスクールに留学。MBA(アントレプレナリアル・マネージメント兼ファイナンス専攻)を取得。同社退社後、99年、アドバンストアイ株式会社を設立、代表取締役に就任。両手仲介でないM&Aアドバイザリーを中小企業に提供すると共に、公益財団法人日本生産性本部のコンサルティングパートナーとして地域金融機関や大手企業のM&A担当者の研修も行っている。著書に『いざとなったら会社は売ろう!』『中小企業のM&A 交渉戦略』(ともにダイヤモンド社)がある。

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